愛着を断つと見えてくるもの

3月上旬。まだメソメソしていた

次の仲間を楽しみに待てば良いのに、思い出を引き剥がそうとすると涙が溢れてくる。貧しさから這い上がろうとした20年のカーライフ。悲喜の入り混じる記憶の喪失にも感じてしまう。

俺はもう、穏やかで豊かな世界線に来た。
彼の役目は達成されてた。穏やかな日々を
担うのは、次の仲間なのだろう。

20年もセルフで維持した車というのは、おっさんが若い頃の服を、無自覚に着ているのと似ているかもしれない。彼の機嫌と私の半生が、迷走したからこそ、この穏やかさを築けた。そんな気分。ちょっと大事にし過ぎた。

愛着が過ぎたら、こんなに悲しいなんて
きっとどこかで、執着に変わっていた。
もう何でもかんでも、大事にしたくない。

住まいも農園も、たった一歩で変わったように
車を手放すことを覚悟した瞬間から、日増しに
ドナドナの追い風が強くなった。

今年の春分は、星のめぐりも相まって
浄化への風が強い。半年も預けて原因が
分からず、2つめの工場も撤収を決めた。

トータルで1年。流れに逆らっていたのか、
大きな揺り戻しが、車の入れ替えになった。

車を探す基準を改めた。付き合い方から
手放す時期まで最初に考えることにした。

どこでも売っていて、手がかからず、コスパよく、必要以上の愛着なんて持たない車を探す。オペルとは対極にあるような、国産の車選びを始めたら、他界した義父の声がした。車選びに参加したかったのだろうか。そして間もなく車が決まった。憧れたクルマでなく、普通の車。

購入先は義父が勤めた会社から2軒隣だった。
車選びに参加した義父のお薦めかも知れない。
これを世間では、ご縁と呼ぶのだろうけれど、
車はもちろん、場所も店も気に入らなければ、
そもそも高価な買物なんてしない。

ところが、車はワンオーナーの記録簿付き、店はしつこい値引きに誠実に答えてくれたし、俺が用意した無数の意地悪なハードルを、あっさり越えてしまった。こういうときはきっと、吹いた風になびいた方がいい。

気がつけば、メソメソがイソイソに
変わりながら、3月13日になった。

半年頑張ってくれた2軒目の整備工場にJAFを呼んで搬送、最後は家で看取ることにした。情緒不安定。凄く荒れた天気。そんな中、JAFの立会いにカブで移動。もうずぶ濡れ。

雹がふって晴れて、雨が降って風が強い。
春の嵐が、彼の心理描写に感じてしまう。
すべてを押し流す、宇宙元旦なのだ。

こういう時は動きたくないほど遠く押し流されるのだろう。流されないためには、自ら動き風に乗るしかない。モノも考え方も。

JAFの兄ちゃんは、難儀な駐車場に苦戦しながら、オペルを我が家にセットしてくれた。ちょっとクルマ談義になり、目まぐるしく変わる寒空の下、珍しいオペルアストラについていろいろ聞いてくれた。手放すことも知らず。

次の工場は決まってますか。
直ったらどこ行きましょうか。

まるでオペルが俺に問うような話に、おっさんは泣いてしまった。気付けば1時間ちかく。途中何度も涙を拭いながら、お兄さんと語り合った。最初で最後のいい時間だった。もし、あと2日遅れたら、車検が切れてJAFすら呼べなかったと、お兄さん。ギリギリのタイミング。やっぱり今回もお天道様に感謝しかない。

こうなった以上、登録抹消のため
ナンバープレートを自分で外さねば。
オペルのおかげで辿り着けた穏やかな
毎日に相応しい、次の仲間を迎えるときだ。

後日に彼を丁寧に拭きあげて、ナンバーの封を破る。おれの魔法は解いた。染み付いた愛着の手垢は消えない。嫁さんが彼と何か話してた。

嫁さん乗せたドライブ中に止まったりしたし。
レイトショーでスター・ウォーズを観た帰り
真冬の駐車場でエンジンが掛からなくなって、
万感たる2人分の興奮と感動がすっ飛んだし。

それでも感謝してくれてるなら、有り難い。

還暦まであと5年。過去の苦労をまとった愛着という日常を終わらせたら、新しい仲間と、トップギアまで成熟した、穏やかな日々を謳歌したいと思う。